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福岡高等裁判所 昭和38年(ネ)893号 判決 1965年11月21日

控訴人 西村弘子

安部俊次郎

被控訴人 国

訴訟代理人 高橋正 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用中補助参加人の補助参加によつて生じた部分は補助参加人の、その余は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

被控訴人主張の「四一〇番の土地」がもと参加人安部俊次郎の所有であつたところ、同人が訴外株式会社福岡相互銀行のために設定した抵当権の実行により、昭和二六年五月二三日の競売開始決定に基き、本件土地を含む右「四一〇番の土地」が競売せられて同年六月五日訴外商工組合中央金庫が競落し、本件土地について昭和二七年九月一九日右金庫のため所有権移転登記がなされ、その後参加人安部俊次郎、訴外藤下よしゑ、控訴人西村弘子と順次所有権移転登記がなされたことは当事者間に争がない。

<証拠省略>を綜合すれば、被控訴人国は昭和二六年一二月五日参加人安部俊次郎から「四一〇番地の土地」のうち三〇坪八合四勺を福岡都市計画街路春吉花園線道路敷地として代金九万二、五二〇円で買受け、昭和二七年五月二一日、右買受土地を、同所四一〇番地の一宅地三〇坪八合四勺(本件土地)、残余の宅地六五坪一合六勺を同所四一〇番地と分筆して、その旨の登記をするとともに、同日付本件土地について右売買を原因として建設省名義で同省の嘱託に基き所有権移転登記を了したこと。ところが前記の如く「四一〇番地」の土地について訴外株式会社福岡相互銀行のために設定されていた抵当権の実行により、競売手続が実施中であつたが、被控訴人国と参加人安部俊次郎並びに一番抵当権者である訴外銀行及び二番抵当権者である訴外商工組合中央金庫の協議の結果、前記代金九万二、五二〇円は一番抵当権者である訴外銀行が福岡市より受領し、(形式的には訴外銀行が代理受領し、受領後右金員は参加人の同銀行に対する他の債務の弁済に充当する)訴外銀行及び訴外金庫はそれぞれ本件土地に対する抵当権を放棄することにしたこと。しかしながら訴外銀行は本件土地に対する競売申立の取下手続を怠つた結果、四一〇番地の土地全部について競売手続が進行し、訴外金庫がこれを競落するに至つたこと。などをそれぞれ肯認することができる。

<証拠省略>によれば、訴外銀行は「四一〇番の土地」に対する被担保債権の中より、先に福岡市から代理受領した本件土地の代金九万二、五二〇円については別にこれを控除することなく、前記競売の配当金として六六万四、九九六円を受領した事実が認められるけれども、前記中山皓壱の証言によれば参加人安部俊次郎は当時訴外銀行に対して多種多額の債務を負担し、本件土地の代金は本件被担保債権以外の債務の弁済に充当されたことが認められるので右事実を以てただちに訴外銀行が本件土地の抵当権を放棄していない事実認定の資料とはなし難く、当裁判所が採用しない当審証人安部俊次郎の証言を除いては他に前記認定を左右するに足る的確な証拠はない。

以上の事実より推認すれば、訴外銀行及び訴外金庫は参加人に対しそれぞれ本件土地の抵当権を放棄したと判断するのが相当である。

そこで検討するのに、およそ任意競売に際し競売手続の基礎たる私法上の権利に瑕疵(債権又は担保物権の無効又は消滅等の事由)あるときは競売の効果も亦この瑕疵を帯びるものと解すべきことは当然で、本件についてみるに、前叙の如く訴外銀行は本件土地に対する抵当権を放棄したにかかわらず、競売申立の取下を怠つた結果本件土地についても訴外金庫がこれを競落するに至つたものであるから、本件土地の競売は無効というべきで、訴外金庫は右競落により本件土地の所有権を取得するに由ない。

控訴代理人の援用にかかる大審院判例(大正八年(オ)第一、〇一六号)は「抵当権附債権の転々譲渡せられた間に一人の抵当権者が放棄したとしても登記の抹消無き限り譲受人は抵当権を取得する」というものであつて本件に適切な判例とはなし難い。

そうすれば本件土地につき前記金庫より順次所有権を取得したとしてなした参加人、藤下よしゑ、控訴人の所有権移転登記はいずれも実体的権利のないものからの所有権移転であつて無効のものといわねばならない。

してみれば、本件土地の所有者たる被控訴人において所有権に基いて登記簿上の所有名義人である控訴人に対し所有権移転登記手続を求める被控訴人の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく正当でその理由があるから認容すべきものである。

よつて結論において右と同旨の原判決は結局相当で控訴人の本件控訴は理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九五条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川井立夫 木本楢雄 松田冨士也)

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